殺し屋・五六の死の知らせは、 答えはYESそしてNO。 真を確かめる者と偽を疑う者とによってメッセンジャーの返答は真っ二つに分かれたが、どちらにせよ、殺し屋・五六は二月二十九日午前五時零六分にこの東京から一瞬にしていなくなってしまったことは動きようのない事実であった。 「五六が最期に感じたのは舌を焦がす灼熱の炎。口腔から射入し後頭部へ射出された20ゲージの弾丸は0.003秒のうちに豪傑・五六の生命を奪うに十分だった」 界隈に住まう者たちは、五六の亡骸を見たがった。というのも、彼らはもちろん仕事の依頼主でさえ殺し屋の生前を知る者はいなかったからである。 風来人の五六はどの組織にも贔屓を持たず、依頼を受ければ平等に仕事をこなした。ひとたび五六に目をつけられれば、 そのあまりの手際の良さに、五六の仕事は一種の生理現象、晴れていた空が俄か雨に見舞われることと同じだと考える者も少なくなかった。中には五六の死を 「五六の骸は請負人の手によって東京湾からさほど遠くない雑居ビルの跡地に埋葬された。その場所は我々にも分からない」 新しい時代の幕が開けた。朝陽の昇りきる前に一人の殺し屋が現し世から滅されたことで、界隈に住まう者たちは俄かに判断基準を失った。誰を憎んでいるのか、どの程度の憎しみが殺しに値するのか、そもそも憎しみとは何か。 五六によって隔てられていた生と死の垣根が取り外された今、この状況は 「五六は当然の報いだと言っていた。それが自身に向けた言葉なのか他者に放たれた言葉なのかは各人の判断にお任せしたい」 喪に服した東京湾景にただ一つの疑問が残った。すなわち「五六を殺した手練は誰か!」。 界隈に住まう誰もが話の最後に 「五六を殺したのは五六自身だ。彼女は平生の如く、その依頼に答えたまでだ」 殺し屋・五六 2014.5.18 |