船旅


船内アナウンスが,目的地への到着を告げる.
二週間に渡る船旅も,これで終わりだ.
俺は,首に締めたネクタイを少し乱暴に緩めた.
昔に比べて快適になったとはいえ,やはり船内は息苦しく感じる.

有害電磁波遮断船窓から,虚空に浮かぶ青い惑星が見える.
――地球と似ている.
思わず,ほっとしてしまった.
隣に座っている彼女が,すぐに気遣う視線を寄越す.
心配性な彼女のために,俺はできるだけ優しい笑顔で言った.
「後悔してねぇよ,大丈夫だって.」
猫のような彼女の目を見つめて,その頬を撫でてやる.
周りもカップルばかりなので,遠慮なく? ――いちゃいちゃできる.

彼女と出会ったのは,地球アジア地方のトウキョウだ.
俺は平凡なサラリーマン,彼女は星間使節団の通訳としてやって来た.
「なぁ,そんなことよりさ,」
大昔の地球人たちが思い描いていた宇宙人よりも,人間に似ている彼女.
けれど恋に落ちるのに,姿形は関係なかった.
「君のお父さんに会ったら,どういう風に挨拶すればいいのかな?」
初の星間結婚のカップルたちを乗せた船は,青い惑星へと降りてゆく.

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